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細胞溶解用超音波処理プロトコル

はじめに

超音波処理は、サンプル中の粒子に音エネルギーを当てて攪拌を行います。超音波の周波数は通常20kHzより大きいものが使用されます。超音波処理器または超音波プローブを使用したものを、通常は超音波処理といいます。

ラボにおいて超音波処理は主に細胞破砕の手段として使われています。超音波処理は細胞膜を破砕し細胞中の内容物を流出するために使用され、この過程を一般的にソノポレーションと呼びます。超音波処理は細胞を破砕し、抽出タンパク質を調製する際に行われます。溶解バッファーも使えますが、超音波処理でも細胞を溶解できます。また超音波処理は断片化/シアーDNAにも使用でき、先のサンプル調製過程における干渉を防ぐことができます。その他の用途としてはナノ粒子やリポソームの製造、アントシアニンや抗酸化物質の抽出があります。

細胞のタイプによっては(細菌もしくは真核生物)溶解が難しいことがあり、界面活性剤入りバッファー単独では完全な細胞溶解ができないことがあります。さらには、細胞質を放出するために細胞壁を溶解するだけではなく、細胞内小器官の溶解が必要となる場合もあります。細胞の超音波処理でチタンプローブを用いると、細胞が完全に溶解でき、全てのDNAとRNA、細胞内タンパク質を抽出できます。この手法はELISAアッセイと免疫沈降向けに均質な抽出物を得たい場合に役立ちます。

超音波処理

下記の細胞溶解向け超音波処理プロトコルに従うことで、用途に合った効率的な細胞溶解ができるでしょう。

  1. 細胞を5分間、270 x gで遠心分離する。
  2. 残存溶液を吸引し細胞を30-100μLのRIPAバッファーで再懸濁する。
  3. ペレットを氷上で30分間静置する。
  4. サンプルを下記の通り超音波処理する。
  5. 超音波プローブを20kHzの周波数で準備する。
  6. 細胞を1.5mLチューブに入れ、超音波プローブの先端の下でゆっくり動かす。
  7. 粘度を落とすためにプローブでバッファーを10秒x2回振動する(これによりサンプルが泡立つことがあります)。
  8. このプロトコルでは、免疫沈降やウェスタンブロット法、ELISAアッセイに使用する場合には、サンプルの泡は問題になりません。
  9. サンプルとその粘度によっては、細胞をさらに10秒間超音波処理します。
  10. サンプルの超音波処理が終わったら、氷上で5分間静置します。
  11. 破片をペレットにするため、10,000 x gで20分間遠心をかけます(デブリには溶解しなかった細胞や核、小器官が含まれます)。
  12. 上澄みを新しいチューブに移しラベルします。
  13. -20℃で保管して下さい。

細菌のサルコシル溶解と超音波分解

  1. サルコシル溶解しシャペロンタンパク質を除去したBL21細菌ペレットを50mLのよく冷えたナトリウムTris-EDTA (STE) バッファー (10 mM Tris-HCL, pH 8.0, 1 mM EDTA, 100 mM PMSFを添加した150 mM NaCl)で再懸濁する。
  2. 500μlのリゾチーム(10mg/ml)を加え、氷上で15分間静置する。
  3. 500μlのDTTと7mlのサルコシル(STE溶液で10% (w/v)にしたもの)を加える。
  4. 全ての精製バッファーはよく冷やしておき、サンプルは氷上に置く。全ての精製ステップは可能であればコールドルームで実行する。
  5. サンプルを2分間のインターバルを挟みながら30秒間で3回超音波処理する。
  6. さらなる精製ステップのためにサンプルを氷上に置くか、-80℃で保存する。

ヒントとコツ

  1. 常にサンプルを氷上に置いて下さい。ソニケーターからのエネルギーでサンプルが分解し加熱されます。サンプルが熱くなり過ぎるとタンパク質が分解し始めます。これを防ぐため、サンプルを処理前・最中・後と可能な限り常に氷上に置いて下さい。
  2. パルス処理によってサンプルの温度を下げて下さい。ほとんどの処理器はパルスモードがあり、超音波処理中のサンプルの加熱を減少させます。もしパルシングが利用不可/オプションにない場合、ソニケーターを5秒間オンにしてから切る作業を、必要に応じて何度も繰り返して下さい。
  3. 処理し過ぎないように気を付けましょう。長時間、超音波処理をするとタンパク質が分解します。細胞や組織タイプ、サンプル量によって最適条件が異なるため、条件検討が必要です。
  4. サンプル量とプローブサイズですが、使用するプローブはサンプル量によって変わります。各プローブにはサンプル量の推奨範囲があります。小さいチップ(マイクロチップ)は50mL以下の小さく薄いベッセル内のサンプル処理向けに推奨されています。マイクロチップは短い処理時間向けに作られています。マイクロチップは小量でもかなりの量の熱を産出するため、熱の蓄積を防ぐためにパルスモードを使用して下さい。
  5. 耳を防護して下さい。超音波処理は超音波を使用するため、人間の可聴域外ですが小さなキャビテーション泡の弾ける音が大きな引っかき音を発生させます。適切な耳の防護用具を付け、耳を覆うようにして下さい。
  6. できるだけ泡の形成を防いで下さい。もしプローブが適切にサンプルに浸っていないと泡の形成に繋がり、逆に深過ぎると適切な溶解ができません。泡が形成されても慌てる必要はありません。免疫沈降やウェスタンブロット、ELISAアッセイの際には問題にはなりません。
  7. 振幅に関しては、ゆっくり着実にする必要があります。全ての実験に言えますが、機器を最大ボルト数に上げたり、細胞を半分の時間で変形させる誘惑は大きいものですが、大抵発表や公開できるような結果にはなりません。超音波処理では低い振幅で長時間行うことにより、サンプルの加熱が減少し、その間に別の実験に取り組めます。振幅と強度には直接的な関係があります。結果を再現できるようにするには、振幅の設定、温度、粘度とサンプル量は、全て一定に保つ必要のあるパラメーターです。再現性のある超音波処理の結果を得るには、パワーではなく振幅が最も重要になります。
  8. サンプル毎に常にソニケーターの先端を清掃して下さい。これは別サンプルへのタンパク質の持ち越しを制限するために極めて重要です。ソニケーターのプローブを70%エタノールかビーカー内のエタノール溶液で拭きましょう。